男性差別、日本人差別、そしてオタク差別

差別の定義という話になると泥沼にはまるのは目に見えているとはいえ、一般的に差別が行われているとこういう事象が起きるという目安は確実にある。差別は特定の社会集団に対してなされ、被差別者集団は社会的経済的に不利な状況に置かれる。これは広く見られる差別の判断材料であろう。


集団が不利な状況に置かれるわけだから、統計的調査によって特定集団が社会的経済的に不利な状況にあることは可視化されやすい。まずもっとも統計的にわかりやすいのは経済的指標であろう。財産・所得・賃金などの統計を参照すれば、日本においても世界においても、被差別集団が不利な状況に置かれていることは明白である。


社会的な状況もある程度は統計的な数値に落とし込める。例えば、指導的な地位にある者の性比や出身民族の比率が母集団における比率と大きく異なっている場合などは統計的に可視化されやすいだろう*1。こうした指標においても、被差別集団が不利な状況にあるのは明白なようである。特に、性比がだいたい1対1であることを考慮すれば、社会的な性差別の状況は誰の目にも明らかなはずであろう。


他にもいろいろな指標は考えられるが、もう一点だけ具体的なものをあげておくと、犯罪統計も差別の実態を表す。犯罪は一般に弱者を狙って行われるものであり、被差別者は社会的構造的な弱者であるからだ。暴力や虐待の被害者となりやすいのは誰かという問題である。この観点では、子供・女性・老人・障害者・LGBTなどが被差別集団にあたるだろう。

ここで注意を喚起せねばならないのだが、偏見やステレオタイプと差別をいっしょにしてはならない。例えば社会的なバッシングは必ずしも差別とはいえない。連日マスコミに財務官僚が叩かれているからといって、財務官僚が社会的経済的に不利な地位に追いやられているわけではない。そんなわけない。


マンガ的戯画化されて笑いものにされているからといって差別されているわけではない。ぐりぐり眼鏡のガリ勉くん、脳みそ筋肉スポーツマン、女ったらしイケメン野郎などは典型的に戯画化されているわけだが、学業優秀な者もスポーツが得意な者も容姿端麗な者も、社会的経済的に不利な状況にあるわけではない。そんなわけねえだろ。


ネットやマスコミで叩かれている、あるいは笑い者にされている、それだけでは差別されているとはいえない端的な例を上記に示した。ちょっと叩かれたり笑われたりすると「差別だ」と言い出すお馬鹿さんが少なからずいることにはうんざり。ただし、社会的経済的に不利な状況に置かれているという「実態」がある場合は、社会的に叩かれることや笑い者にされることは非常に深刻であることはもちろんである。

根拠に基づき、実証的に、あるいは科学的に考えることの重要さはいまさらいうまでもない。差別も社会的な事象である以上、それは統計的に現れるはずであるし、現に古典的な差別は統計的な数値に具現化している。ここを押さえない差別論は主観的な印象ではなかろうか?


さてここで質問である。
特に、男性差別、日本人差別、オタク差別を主張する方々に質問である。
男性・日本人・オタクが日本社会において社会的経済的に不利な状況に置かれているという統計的な調査ってあるの?
あったら教えて!
その存在を知らないから否定しているのではない。知らないから教えてと言っている。

先程の質問であるが、男性差別と日本人差別については、質問というより反語である。
社会的経済的に女性が不利な状況に置かれているということはどんな統計を見ても明々白々だ。また、日本国内で圧倒的多数の日本人が不利な状況にあるという統計的根拠もない。このあたりは明確に否定できる。男性差別にも日本人差別にも少なくとも統計的な実態はないどころか統計に見られる実態と逆の主張である。


オタク差別については、根拠重視の観点からは保留である*2。上述した犯罪被害者になりやすさということにおいて、いわゆるオタク狩りというものが先進国でけっこう一般的に見られたという話をどっかで読んだw 犯罪統計にはそんな項目はなさそうだから実証は難しいだろうが、暴行や強盗の裁判記録を丁寧に拾っていけば何か分かるかもしれない。
キモオタという言葉があるが、キモの部分、つまり容姿差別というのは統計調査や社会心理学調査で何度も取り上げられ実証されているようだ。しかしオタの部分、すなわち純然たるオタ趣味が理由で社会的経済的に不利な状況になるというのは、そうした話をきいたことはあるのだが、いわゆる噂の域をでない。実名を出した体験談があっても、個別のケースでしかないものは集団が不利に扱われたという根拠としては弱い。就職などに関わるオタク差別があるのなら、裁判にでもなっていると思うのだがどうなのだろう。左翼活動で就職・配置転換などが不利になったという事例は、統計にこそ現れないとしても裁判沙汰になって記録に残っているものは多く、憲法や労働法の教科書に載っているものまである。左翼が社会的経済的に不利な状況にあったというわけで、客観的に確認できる体験談であるとはいえよう*3


だからそういう統計があったら教えてほしい。オタク差別の存在を確信する社会学系の学生諸君はいっちょ卒論のテーマにでもしてみたらどうだろうか? 不利な状況にあれば必ず統計に現れるはずである。差別の存在を実証するのは被差別者ではなく学問の責務なのだ。


ただし、現時点で否定はしないがオタク差別があるという前提に乗ることはできない。オタクに対する偏見があることも戯画化がなされていることも知っているが、それはすなわち差別を意味しない。差別があるというのなら、社会的経済的に不利な状況にあることの客観的な根拠を知りたい。あるいはせめて複数例の裁判記録を。

昨今のネットにおける「きれいな差別ときたない差別」とか、いわゆるポリコレの話にも関連があると考えて書き飛ばしてみた。
そもそも男性差別や日本人差別というのは、実態のある性差別や民族差別を無化するために小学生が思いついたレベルのでっちあげといえよう。オタク差別は前二者とはだいぶ違うとは思うのだが、オタク差別を主張している者が前二者を主張する者と重なっている事例を観察しているし、また、オタク差別を主張する者が実態のある他の差別を軽視する発言をする例も観察されるので気になっている。もちろんこれは個人的な観察の域をでない。
差別問題に限らず大切なのは「実態のある〇〇と実態のない〇〇」であることは最後に確認しておく。

追記

id:death_yasude
どちらかというと被差別者が犯罪に手を染めることのほうが多いし加害性を強調されやすい。問題のある集団だからを排除の根拠にしやすいから


メリケンの犯罪統計(例えばwww.clair.or.jp/j/forum/pub/docs/380.pdf)を見ればわかるが、殺人・傷害・強姦などの対人犯罪は同人種内で行われることが多い。例えば殺人の動機は「カッとして」がどこの国でもだいたい一番多いわけで、当然ながら被害者は同じ境遇の者となる。
つまり黒人に犯罪被害者が多いということと加害者が多いということは一致することとなる*4


また、ご指摘の点は人種差別・民族差別については確かにあてはまるのだが、性差別についてはあてはまらない。どこの国の犯罪統計でも、女性が加害者となる事例が過半数を占める例はないと思う。日本においてはだいたい20%くらいかな。
そういうわけで、被差別者に犯罪加害者が多いというよりは、被差別者に犯罪被害者が多いというほうが適切であろうと考え、そうした記述になった。

*1:アファーマティブアクションはこうした状況の是正を狙ったものである。うまくいっているかどうかは定かではないが

*2:オタクに対する偏見については、個人的には新規に勃興したメディアへの叩きなのではないかと思っている。昔は小説を読むと馬鹿になるとか嫁に行けないとかいわれて叩かれたようで、それとゲームやアニメ叩きは同型なのではなかろうか

*3:ちなみに大学紛争などで運動を取り締まる側にまわった運動部や応援団などの学生の就職は非常によかったという「体験談」は多いようだw

*4:財産犯については被害者は「持っている者」となるからメリケンでは白人が多くなるわけだが