意図や目的より手続きを重視するということ


以下は
http://h.hatena.ne.jp/manysided/9236557630630465306
への反論。
ハイクで応答しようと当初は思ったけれど、長くなったし大事な論点も含むのでエントリという形にしますにゃー。

応答します>id:manysided


前回のエントリでも書きましたが、宗教権力というものは「善」を他者に求めるものだといえるでしょう。それに対して、他者危害行為を禁じるのが自由主義における世俗的な権力です。他者に対して善を求めることと悪を禁じることには大きな違いがあります*1
なぜなら、善というものは人によってさまざまな形をとるものだからです。それに対して、危害というものはある程度客観的に定めることができます。


はてこ氏の議論は、「良心」を他者に求めるものでした。
これは基本的に宗教のロジックです。自らの信ずる「善」「良心」を他者に求める論法に対しては、「僕にはそんな良心はない」とつっぱねるというだけのことです。
僕は自らの良心にしたがって行動したいと願っていますが、他者に良心を押しつけられるいわれはありません。良心を求める論法も、実際の良心の押しつけも断固拒否します*2。他者の良心も信仰も尊重するからこそ、良心のおしつけは御免こうむります。これのどこが信仰への嘲笑や差別にあたるのですか?*3


つまり
はてこ氏に対して特定宗教の関与を疑っているのではなく、その論法が現実に宗教的なものであるといっているわけですね。
「だいたい真偽のほどもわからないうちに、決め付けるとか失礼千万すぎる。」という僕に対するあなたの批判は、根拠のないモノだということです。真偽の程もわからないうちに決めつけているのはどちらでしょうか? そもそも僕はキリスト教そのものに対して否定的なことをいった憶えはありませんし。


私は、はてこさんが性暴力をどうにかしようと思ってるのは事実だと感じたから


僕もそう思いますよ。
しかし
意図や目的が手段ややり方を正当化するという考え方は明白に間違っています。すこし風呂敷を広げた話になりますが、意図や目的が手段を正当化するという発想が、宗教権力や全体主義権力による弾圧や虐殺などを生んできました*4
こうした歴史的な悲劇に対する反省から、意図や目的ではなく「手続き」を重視する考え方が自由主義においては採用されています。自由主義においては、正義とは意図や目的によるものではなく、手続きにあるものだといえるでしょう。
そして、「表現の自由」とはそうした手続きのなかでも、もっとも決定的なものだといえましょう。


つまり、表現の自由をはじめとする「手続き」とは、なるべく人が死なない世の中、なるべく人が抑圧されたり差別されたりしない世の中にするために、どうしても欠かすことのできないものなのです。善なる意図や目的のために手続きを軽視することを僕たちひとりひとりが認めてしまうことは、権力に無制限な殺人許可証を発行することと同じなのです。


どのような政治体制においても議論は重要ですが、自由民主主義においては議論の重要性はとりわけ高いものであるといえます。そして、議論というものもやはり手続きが問題なのです。
よい議論とはよい意図や善なる目的によってなされる議論のことではありません。論理的整合性・根拠の提示・相互批判の甘受などなどの手続きを踏まえた議論のことです。
そして、はてこ氏の議論は、論理的整合性・根拠の提示・相互批判の甘受のいずれにおいても大きな問題があると判断しています。したがって僕ははてこ氏の議論を支持できません。それどころか、「はてこさんが性暴力をどうにかしようと思ってるのは事実」であるのなら、いっそう批判的に見なければならないと考えます。
というのも、僕も「性暴力をどうにかしようと思ってる」からです。目的が同じであるからこそ、手続きが杜撰な議論を放置するわけにはいかないのです。少なくとも、批判の声をあげておかなくてはならない。


いろいろな考え方が多様であってほしい、他者の権利を侵害しないかぎりにおいて自由に生きたいと考えるからこそ、個々の思想・信条に肩入れしない「手続き」を重視しているということはご了解ください。


いちおう、あらためて僕の立ち位置を表明しておきますと、表現の自由とはもっとも重要で決定的な「手続き」であると考えていますが、無制限に肯定されるなどとはまったく考えていません。表現には最初から他者が必要であること、あるいは社会にはつねに「保護されるべき弱者(たとえば子供)」がいることを考えればこれは当然のことです。
表現の自由は最初からひもつきです。ただし、公権力がひもをつけることには最大限の警戒が必要だということです。

*1:くわしくはリベラリズムと他者危害(追記アリ - 地下生活者の手遊び共有されるべきは【悪】や【誤謬】(追記アリ - 地下生活者の手遊びあたりを参照のこと

*2:普遍的客観的に良心というものはどういうものかを示す議論については、その説得力に応じて従いはします

*3:いっとくけど馬鹿や卑劣漢を僕は差別してるよ

*4:意図や目的の過大視は陰謀論の温床でもあり、また、疑似科学の温床でもある。ひとことでいえば呪術的なのだ