国家は失敗する、市場も失敗する


掲示板でだいぶ前にお奨めしてもらった「市場対国家」を読みましたにゃ。

市場対国家―世界を作り変える歴史的攻防〈上〉 (日経ビジネス人文庫)

市場対国家―世界を作り変える歴史的攻防〈上〉 (日経ビジネス人文庫)

市場対国家―世界を作り変える歴史的攻防〈下〉 (日経ビジネス人文庫)

市場対国家―世界を作り変える歴史的攻防〈下〉 (日経ビジネス人文庫)

現在に至るまでの経済政策の流れについて、実にわかりやすく、かつ腑に落ちるように書かれていますにゃ。とてもオモチロかった*1のでご紹介。

扱っている時代と地域

1929年の大恐慌後から、1997年のアジア通貨危機までの時代を扱っていますにゃ。
この時代に起きたことを、ヨーロッパ・南北アメリカ・アジア・アフリカと全世界について取り上げていますにゃー。


著述スタイル

人物列伝とでもいってよい形をとっているので、経済や政治の堅い記述が苦手なヒト、僕のように基本的な知識に難があるヒトにも読みやすいにゃ。戦国武将好き・三国志好きなどのお歴々にもオススメだっ!
著者の履歴や書評などを見るに、人物中心で読みやすいけれど、学問的レベルは落としてにゃーと思われますにゃ。


もうひとつのポイントとして【考え方】とシステムとの関係に力点を置いた記述をしていることですにゃ。ここもわかりやすい点で、成功していると思いますにゃ。

感想など

中身にはあまり踏み込まず、ビクーリしたところなどを
1)大恐慌後、市場というものに対する信認がまるで地に落ちたその落ちっぷりにびっくりしましたにゃ。サブプライムあぼーん で現代も市場熱はだいぶさめているけれど、大恐慌後はそれどころではなくまったく信用されなくなっているではにゃーか。


2)ソ連型の統制経済が、その経済効率において優れていると思われていた時代の空気がわかって興味深かったにゃー。むかーし、年配の教師が「君たちにわかれといっても無理だが、昔はソ連というのは本当に希望の星だったんだよ」とかいっていたけど、それは政治だけでなく経済においてもあてはまったということでしょうにゃー。


3)インド・アフリカ・南米での経済政策はまったく知らなかったので、実に面白かった。市場を機能させることで、これらの地域での経済が好転したことに疑いの余地はにゃーだろうね。


4)サッチャー革命が大きく取り上げられていたのは予想の範囲だったけど、若い頃のサッチャーが美人だったのにはオドロキ・・・・

サッチャーハイエクと話し込んだあと、ハイエクが周囲にサッチャーへの印象を聞かれ、

かなりの沈黙の後、ハイエクはたったひとこと、こう答えた。「ほんとうに美しい女性だ」

写真を見て僕も踏まれたくなったにゃー。サッチャーならさぞ堂のいった女王様ぶりが期待できそうだにゃ。


5)ケインズハイエクの関係が興味深かったにゃん。今またケインズ復権しているというのも、この本から導かれる論点としては実に面白い。


6)シロウトながらリフレ政策悪くにゃーと思っているけれど、この本読んだらインフレの怖さはよくわかりましたにゃ。インフレの破壊力を肌で知っている年配の経済学者が、リフレを警戒するというのももっともかもしれにゃー。


7)「堕ちた帝王」サムエル・インサル、インドのラオ首相、「規制の預言者」ジェイムズ・ランディスあたりの人物が特に興味深かった。

この本の結論部

市場万歳、で終わってにゃーのがこの本の見識ですにゃ。結論部に、市場重視の結果は、それが生みだす結果によって判断されることであり、その判断基準を具体的に5つあげていますにゃ。

  • 1)成果をあげているか

特に雇用の創出、社会インフラなどを市場が提供できるかどうか

  • 2)公正さが保たれるか

「市場制度はその性格上、公正さが問題になりやすい。市場はその活力によって、そしてなによりも動機づけに使われるインセンティブの性格によって、平等主義の価値観が強い統制型の社会に比べて、所得格差がはるかに大きくなる。しかし、公正と公平という考え方もきわめて深く、それ自体できわめて強力な動機づけになる。」
「富の集中が行き過ぎれば、市場重視の制度の存続にとって必要不可欠な正統性が失われていく。」
アメリカですら、受け入れられる格差に限度があるのは確かだ。少なくとも、ピーター・ドラッカーはそう警告している。」
市場経済制度の公正さに対する信認は、司法制度の効率性と経済活動の基礎になるルールの透明性に左右される。腐敗は信認に打撃を与える点で、最悪の敵である。」

「自国の企業が「アングロ・サクソン流の株主価値」の宗教にかぶれて、ほとんどの社会で社会的な義務や責任とされている点を冷たく切り捨てていくことに反対する声もあがっている。」
多国籍企業が大きな脅威だとみられていたのは、そう何年も前のことではないが、いまでは脅威になっているのは、資本市場なのだ。」

  • 4)環境を保護できるか

「経済制度は、幅広い環境問題にどのような対応をするかで判断されることになろう。」
「指令管理とお馴染の形態の規制によって前進すべきなのか、革新的な市場重視の方法によって前進すべきなのか。」
「民間セクターは今後、環境問題でこれまでより大きな役割を担うようになるだろう。環境改善に向けた姿勢と寄与によって、企業が判断されるようになるだろう。」

  • 5)人口動態の問題を克服できるか

開発途上国における人口増加と、先進国の高齢化を克服できるか。


2)の公正さについて、もっとも多くの文章を費やして述べられていますにゃ。
そして、今度の金融危機では確かに公正さが大きな問題となっていますよにゃ。まさに「市場重視の制度の存続にとって必要不可欠な正統性が失われ」たということにゃんね。ちょっと前の飢餓ネタでも触れたけど、90年代は経済成長を続けながら飢餓人口が増えていったわけで、これだけでも市場主義を倫理的に断罪し、「資本主義の豚」というフレーズを復活すべきですにゃ。


もともと、政府が経済を統制するようになったのは、大恐慌によって市場への信認が失われたからであり、新自由主義が成功したのは、計画経済や混合経済が信認を失ったからだにゃ。この本を見れば、混合経済のダメさ加減がこれでもかと書いてあるし、市場主義の凶悪さも僕らは今現在これでもかと経験しているところですにゃ。
月並みな結論にゃんが、万能薬はありえにゃーということなのでしょうにゃ。市場も国家もどちらも失敗するものであり、どちらも使い方次第で有効だということなのでしょうにゃ。
ただ、今回の金融危機においては、市場の失敗というより、市場がまともに機能してなかったのではにゃーかという、シロウトなりの疑問もあるんだけどにゃ。

*1:さんきゅーね>ずむちゃか