世界は中二病パンデミック

中二病に集団感染

もんのすごくアタリマエのことにゃんが
僕にとっては僕という存在は唯一無二の特別なものですにゃ。これは誰にとっても同じことで、自分という存在は誰にとっても特別なものですよにゃ。
で、僕にとっては僕が生まれた日本という国は特別なものですにゃ。また、僕が生まれた20世紀後半と僕がこれから生きていく21世紀は特別な時代ですにゃ。このあたりの事情も、いまこの駄文を読んでいる方々とも共有している確率の高いことですよにゃ。

この【特別さ】のキモというのは、あくまで【僕にとって】というところにあるわけですよにゃ。【僕にとって】僕という存在は特別であり、だからこそ【僕にとって】僕の生まれた国とか民族とか時代も特別だというのは何の問題もにゃーと思われますにゃー。


ところが、この【僕にとって】というところが抜けてしまうお歴々が結構いるわけですにゃ。脳の回線がショートしちゃって、

  • 【僕にとって】=客観的事実、つまり【僕=特別】

になっちゃうというか、そういうことにしたくなってしまうお歴々は珍しくもなんともにゃーわけだ。この【僕=特別】と思いたがるというのは認知バイアスとして最も基本的かつ影響力のでかいもののひとつではにゃーかと。


この【僕=特別】という認識の典型例として、いわゆる中二病があると考えられますにゃ。
「僕はほかの誰とも違うんだ。本当の僕はこんなじゃないんだ・・・・僕は・・・・僕は・・・・・」
勇気をもって自らの凡庸さを受容することでしか、中二病は克服できにゃーですね。


この、【僕=特別】も個人レベルにとどまっていれば、単に中二病とか自意識過剰として笑いものになるだけですむわけにゃんが、これをもうちょっと論駁されにくくしたバージョンに【僕たち=特別】というものがありますにゃ。こいつが性質がワリイ。
この集団中二病が国家や民族に適用されると、エスノセントリズム(自民族中心主義)といわれるものになりますにゃ。このことが問題であることはよく言われていることですよにゃ。ニッポンジンは、「日本=特別」論が大好きにゃんからねえ。
しかしこれは別にウヨクに特徴的に見られることではなく、例えば共産主義における「前衛」という概念とか連合赤軍事件などなどを考えてみれば、集団中二病サヨクにも実にありふれた病弊といえるでしょうにゃ。
ほかにも、日本人はユダヤの失われた支族の末裔だとか、キリストは日本で死んでいたとか、歴史デムパ関連にも集団中二病はぞろぞろいますにゃ。だいたいさ、歴史修正主義ってシロモノが集団中二病のもっともわかりやすいサンプルだしにゃー。

集団中二病【時代】版

一方、この【僕たち=特別】思考法が時代とか世代に適用されることもまた、実にありふれたことなのではにゃーかと。


古代ギリシアにおいて一般的だった時代の解釈に、「現代(=古代ギリシア)は鉄の時代である」というものがありますにゃ。http://www.h6.dion.ne.jp/~em-em/page024.htmlより引用すると


■黄金の時代

  • 農耕神クロノスと大地の女神レアが世界を支配していた時代
  • 心地よい常春の気候
  • 大地は耕されずともふんだんに実りを提供してくれた
  • 乳やネクタルの河が流れていた
  • 神々は人間を愛し、下界で一緒に暮らしていた


■黄金の種族

  • 不死ではないが不老であり、神々と同じような暮らしをしていた
  • 誠実で敬虔であり、正義の女神アストライアが彼らの女王だった
  • 生活の糧はすべて大地から自然に得られる実りでまかなわれていた
  • 強欲とは無縁であり、商売も略奪も戦争も一切なかった
  • 彼らの死はまるで眠りにつくかのように静かで穏やかなものだった
  • 死後は神々によって正しい人間に富を恵む善良な神霊にされた


と、以上のような高度な精神文明を実現した理想の時代から、銀の時代・青銅の時代・英雄の時代を経て


■鉄の時代

  • ゼウスの支配時代
  • 要するに現代のこと


■鉄の種族

  • 現在この世界に生きている人種
  • 神々への畏れを失い、呆れるほどに嫉妬深く貪欲で無恥になった
  • 自らの利益のためなら手段を選ばぬ卑しい性質を持つ
  • 船を作って海を越え、他人の土地や物資にまで手を出すようになった
  • 母なる大地の腹を探って鉄や金を掘り出すようになった
  • 鉄を武器に、金を軍資金に変えることで戦争の規模を拡大させた
  • 神々に嫌悪されており、一生苦痛や懊悩や疲労の絶えることがない
  • いつか必ず滅ぼされる予定


という物欲マンセー物質文明の醜く愚かなニンゲンに成り果ててしまったという神話解釈ですにゃ。この鉄の時代へのDISりって、まるで今の日本をDISる年寄りの繰り言にそっくりにゃんなあ。


で、この話、何度もしつこくいうけど古代ギリシアのお話にゃんぜ。
僕たちから見て、古代ギリシアが精神性の低い物質文明だというイメージがありますかにゃ? 奴隷制だとかいった問題はあるとしても、賢者の時代だったというイメージのほうが一般的なのではにゃーだろうか。

今の時代はカス、という認識の普遍性

というわけで、古代ギリシアにおいてすら「現代はカスだ」という認識(神話解釈)が流通していたことはおわかりいただけたでしょうにゃ。
で、この「今の時代はカス」というのはもちろん古代ギリシアに限ったことではなく、世界中にフツーに見られる考え方ですにゃ。末世思想、末法思想、終末思想というのは、いずれも「その時代」を特別視して特権化する考え方といってよいでしょうにゃー。


また、「今の時代はカス」という言説を微分すると世代論になり、容易に「今の若者はカス」に転化するでしょうにゃ。つまり、「今の若者はなっとらん」という、いわば集団中二病【世代】版言説は、集団中二病時代版のバリエーションのひとつなのだと考えることができるのではにゃーだろうか。
つまり、集団中二病時代版は実に普遍的に見られると考えてよいでしょうにゃ。


ではなんで、自分のいきる時代を特別視することが「今の時代はカス」となってしまうのか? なぜ「今の時代はワンダホー」になりにくいのか?


前提として、同時代をDISっても自分自身に対するブーメランにはなりにくいということはあるでしょうにゃ。「こんなカスの時代、周りはみんなカスばかり」と憂う自分自身は時代から切断して保護というわけですにゃ。
つぎに
呪術、宗教、資本主義:トリアージをめぐって - 地下生活者の手遊びでもちょっと触れたけれど、目に見える形で生産力が増大し、「進歩」を素直に信じられる時代はせいぜい産業革命以降のごく短期間なんだよにゃ。この時代の啓蒙思想っていうのは、「今の時代もこれからも、ワンダホーでビューチホー」という楽天的なものでしたにゃ。まさに「今の時代はバラ色」だったわけにゃんが、こういう時代が長く続かなかったのはみにゃさまご存知のとおり。
進歩思想というシロモノが人類史的にみて特殊なものだと考えれば、ある時代を特別視することが、その時代を「カス」と見なすことにつながりやすくなるだろにゃ。


また、恣意的なる始源 - 地下生活者の手遊びでも触れたことなんだけど、理想の始源を恣意的に設定するというのがオカルティズム思考の基本パターンなんだよにゃ*1。このパターンだと、時代を経るにしたがって悪くなるばかりということになりますにゃ。ギリシア神話解釈における「鉄の時代」はまさにこのパターン。


そしてもうひとつ。
多分これがもっとも重要だと思うのだけれど、現在をどん底と見なすということは、同時に、現在が転換点であるということになるはずなのだにゃ。どん底まできたら、上昇するしかにゃーもんな。
転換点であるということは、つまり「特別な時代」ということですよにゃ。

  • この特別な時代において人類史的な転換を見通す選ばれた俺(たち)

この設定は、中二病的心性にとって、あまりにも魅力的ではにゃーだろうか。


先のエントリで触れた、エイジ・オブ・アクエリアスやクリスタルチルドレンなんかは「この特別な時代において人類史的な転換を見通す選ばれた俺(たち)」という中二病心性の典型ではにゃーかと。BGMはディランの「時代は変わる」にゃんね。
これの類型として、100匹目の猿とか今西進化論のビリーバーさんがあるように思えますにゃ。

集団中二病【生物】版など

いわゆるダーウィニズムをベースにした進化論への感情的反発としてよくあるものに、進化を無目的でランダムなものと見なすものの見方がありますにゃ。神(最近ではデザイナー)に導かれるとか意志の実現とか、そういうものがないからダーウィン進化論はダメなんだとかいうやつ。
暗黙のアナロジー「進化史と歴史物語」: 忘却からの帰還から引用するにゃ


「神に導かれて、あるいは自らの意志で、海から陸を目指した生物たち。魚たちは鰭を脚に変え、鰓を肺に変えて陸へと上がる。時に、神はその意志に応えて、新たなる能力・器官を与える。」というのは麗しい物語かもしれない.....と書いてみて、気がつくことがある。


そのように考える人は、進化史と歴史とのアナロジーで見ている、さらに歴史というより「ときには強い意志によって、ときには見えざる何かに導かれて、そしてまた、抗いがたい大きな力に流されて、進んでいく」歴史物語として見ているのではないかと思えてくる。


その歴史物語の終点(目的)に、僕たちニンゲンがいるのではにゃーだろうか。
ニンゲンを特別なものとみなしたい中二病的欲求を進化論に適用すると、現代進化論は我慢のならにゃーシロモノのはずですにゃ。
ダーウィニズムって、僕たちニンゲンは特別なんだい、という集団中二病の生物版なのではにゃーかと。
ほかに「強い人間原理」という、集団中二病全宇宙版なんかもありますけどにゃ。

最後に

保守とか民族主義者が集団中二病に感染すると、自民族中心主義とか歴史修正主義という症状がでてくるというのは当然のことでしょうにゃ。一方、サヨ方面の集団中二病の症状としては、粛正という党派方向とは別に、中二病時代版としてニューエイジだのクリスタルチルドレンだのとお花が咲きまくる方向も目立ちますよにゃー。
あと、この集団中二病時代版というのは、2007-03-21で紹介されている「盲目的予定調和説」の劣化パターンといえるかもしれにゃーです。なにせ、エイジ・オブ・アクエリアスもクリスタルチルドレンも、何の努力も必要とされてにゃーですからね。まあ、自民族中心主義だって、何の努力もなしににゃんとなく自分が偉くなれるような気がするというあたりは同じことにゃんが。
要するに、「そのままの僕」を全面肯定されることを望むのが中二病ですからにゃ。

*1:理想の未来を設定するというパターンもあるけど