F尺度の影にひそむブーメラン

昨日のエントリで紹介したF(ファシズム傾向)尺度は、アドルノ社会心理学的な膨大な調査をもとにしたものですにゃ。同時に研究されたのが「反ユダヤ主義尺度(A-S尺度)」と「自民族中心主義尺度(E尺度)」であり、この2つの尺度には高い相関関係が認められ、また、F尺度との相関関係も高いということですにゃ。


さて、ナチのユダヤ人への視線について、ユング派の臨床家、河合隼雄はこんなことを言っていますにゃ。


すべてはユダヤ人の悪のせいであるとすることによって、自分たちの集団の凝集性を高め、集団内の攻撃を少なくしてしまう。つまり、集団の影をすべていけにえの羊におしつけてしまい、自分たちはあくまでも正しい人間として行動するのである。
影の現象学 講談社学術文庫版 P57


ここでいわれている「影」なんだけど、これはユングの元型理論における元型のひとつですにゃ。培風館 心理臨床大事典によると


その人の意識にによって生きてこられなかった反面のことであり、その人にとって認めがたい心的内容である。個人的観点からみると、文字どおりその人の暗い影の部分を表しているし、集合的観点から見ると、われわれの内にある普遍的、人間的に暗い面を表している。


ユングによると「影はその主体が自分自身について認めることを拒否しているが、それでも常に、直接または間接に自分の上に押しつけられてくるすべてのこと(例えば、性格の劣等な傾向やその他の両立しがたい傾向)を人格化したものである。」という。
P1025


まあ要するに、
「おまえが嫌だと思っている奴のことをいってみな。どの辺が嫌なんだ?
 ・・・・ふんふん。わかった。なるほどね。
 つまりな、おまえが嫌がっているそいつはな、おまえ自身のことなのよ」
という、まあよくあるといえばよくある話ですにゃ。


で、この影ちゅうのは個人だけではなく、集団レベルでも持つものであるということにゃんな。まあ、集団無意識がユング理論のユング理論たるゆえんちゅうか、ユングがオカルトとみなされるゆえんですからにゃー。
で、ヨーロッパ人(ヨーロッパのキリスト教徒、といったほうが正確かにゃ?)にとっての「影」はユダヤ人ですにゃ。自らの醜いところをユダヤ人におっかぶせちゃっているわけにゃんね。

「われらが清明なるヤマト民族は、そんな影などは持たないのでR!」
などと世界の中心で自民族中心主義を叫びたいところにゃんが、日本人にとっての「影」は明らかに韓国・朝鮮人なんでしょうにゃ。まあ、韓国・朝鮮人にとっての「影」は日本人であるというのも成りたちそうにゃんけどね。


まあ、なんにしろ、

  • 嫌な奴(嫌な集団)というのは自分自身(自分たち)のことだと思っとけば間違いない


ところで、アドルノにもどって、http://mazoero.hp.infoseek.co.jp/rin.htmlから引用だにゃ


ファシスト尺度について、左翼の連中が社会の上層部や保守層
ファシスト尺度が高く、社会の下層部や革新層でファシスト尺度
が低いことを期待したが、アドルノが調査したところ、そのような
結果は全く出ず(PEC(保守主義尺度)との不関連)むしろ、下層部
や革新派に大量のファシスト的傾向が発見されて左翼が落胆した
と云うのは笑った。アドルノファシスト尺度は良く出来てるから、
イデオロギー的隠蔽ができないんですね。


ぶわっはっはっはー
ファシストは自分たちのことだったんでやんのー


これはなかなか良くできたブーメランにゃんなあ>F尺度
ちゅうか、個にゃん的にはこのエピソードでかえって信頼性が増したにゃ>F尺度