欲望よ永遠なれ! そして手もとに貨幣が残る


貪欲であることはなかなかにムツカシイといえますにゃ。というのも、欲望の充足というのは、あまりにも簡単にできてしまうからですにゃ。
目の前に山海の美味珍味が広げられているとしても、残念至極なことに僕たちの胃袋はすぐにいっぱいになってしまって、あらゆる美味を味わいつくすということはできにゃー。1人の美女を堪能するにしても時間と手間ひまを要し、ことによるとそのポテンシャルを引きだす前に精も根も尽き果ててしまうこともあるというのに、後宮に絶世の美女を数千人抱え込んだとして何の意味があるのか?


欲望を満たすことができにゃーのはつらいものだから、労働して余剰を産みだし、飢えることのにゃーようにニンゲンは努めてきましたにゃ。世界にはまだまだ基本的なニーズを満たすことのかなわにゃーヒトタチもたくさんいますにゃ。
しかし
飢えることの心配をする必要のにゃーヒトタチにとっては、欲望があまりにも簡単に満たされてしまうことに問題があるのではにゃーだろうか?
欲望を満たすことに不自由を感じにゃーヒトタチにとって、あまりにも簡単に充足できる欲望をどうするかということの解のひとつに「欲望の充足の先延ばし」があるのではにゃーかと思う。
今現在の欲望を充足せずに、欲望の充足を先に先に延ばす。欲望が充足した弛緩や虚脱を恐れているかのごとく、ただひたすら財を積み重ねていくわけですにゃ。永遠に欲望が充足することなく、だから永遠に欲望が尽きることもにゃーわけだ。
これこそが貪欲なのではにゃーのか?>ヴェーバー先生


日本における「ハレ」と「ケ」のようなものは結構いろいろな文化にもあるらしいにゃ。祝祭と日常にゃんね。
日常の労働によって営々と積み重ねてきたものを、祝祭の場において蕩尽する快楽。
大事に大事に育ててきた若者の命を蕩尽するからこそ、戦争は人類最強の祝祭たりえるのかもしれにゃー。


しかしここに、欲望の充足を永遠に先延ばしし、蕩尽を行わない1群のヒトタチがいたらどうなるんだろう?
蕩尽をするヒトタチが、欲望充足を先延ばしする貪欲なヒトタチにかなうわけがにゃーよね。


貨幣とはなにか


 では、貯めておくことのできる財貨とはどういうものでしょうか。たとえば、肉や野菜を購入して、それで貯めておくのはどうでしょうか。言うまでもなく、これは無茶です。腐ってしまいます。肉や野菜ほど極端ではなくても、大抵のものは、古くなって痛んだり、腐ったり、さまざまな理由で価値が目減りしてしまいます。保存する方法や場所を確保するのも、これまた面倒です。このように、現在あるものを未来に持ち越そうとすると価値が目減りしてしまう、この目減りのことを持越費用といいます。貨幣の要件の第一は、持越費用が低いことです。ここで法定通貨を考えますと、これは持越費用がきわめて低い、「貯める」という目的に適した特別な財貨であるわけです。


 貨幣の要件の第二は、その価値が安定していることです。そのためには、第一に、労働を投入しても供給を増やすことができない、あるいは困難であること、第二に、確実な需要が見込めること、これら二つの性質をある程度持っていることが必要です。たとえば、以上の条件をみたすのは、金や貴金属、土地、原油などの資源がこれにあたります。水や食料も「確実な需要が見込める財」ですから、その候補になります。とりわけ、先物取引の存在によって、この傾向は強まります。なぜなら、食料それ自体には持越費用が大きくなりすぎるとしても、食料先物については、その心配がかなり小さくなるからです。


 貨幣の要件の第三は、流動性プレミアムです。流動性とは、好きなときに好きなものと交換できる、という性質です。ですが、いくら土地や貴金属が第一、第二の要件を満たしていても、いざというときに欲しいものと交換できなければ、流動性と呼ぶことはできません。ですから、いざというときに速やかに換金することができるか、ということが重要になります。もちろん、法定通貨は、貨幣そのものなわけですから、最高の流動性プレミアムを持っています。土地や貴金属は、さすがに貨幣そのものには劣ります。しかし、これらを売る市場が整備されていて、現金化するための手間や時間が比較的小さくて済むならば、高い流動性プレミアムを持っているとみなすことができます。
(注)流動性プレミアムの意味は反対であることを付記して欲しいとid:mojimojiより要請がありました


2008-10-05より


つまり、貨幣によってこそ、欲望の先延ばしをもっとも効果的に行うことができるわけですにゃ。
今現在の欲望の充足を我慢し、その充足を先へ先へと延ばすためには、まさに貨幣をため込むことこそが最善の方法のはずですにゃ。


さて、今現在の欲望の充足を我慢し、その充足を先送りする「プロテスタントの禁欲」を戯画化した寓話がありましたよにゃ。

モモ (岩波少年文庫(127))

モモ (岩波少年文庫(127))

あまりにも有名な作品なのであらすじの紹介などはナシ。未読だったら読んでも時間の無駄にはならにゃーでしょう*1
主人公モモの友人ジジが時間貯蓄銀行の灰色の男達にのせられて成功し、欲望の充足を嘆くセリフが印象的ですにゃ。


モモ、ひとつだけきみに言っておくけどね、
人生でいちばん危険なことは、
かなえられるはずのない夢が、かなえられてしまうことなんだよ。
いずれにせよ、ぼくのような場合はそうなんだ。
ぼくにはもう夢がのこっていない。
きみたちみんなのところにかえっても、もう夢はとりかえせないだろうよ。
もうすっかりうんざりしちゃったんだ。

この作品で取引され貯蓄される「商品」は時間ですにゃ。
無論、時間とは貨幣ですよにゃ。
労働者は時間を売って貨幣にし、資本家にとっては時間の経過によって貨幣が貨幣を産む。


エンデさんは、二時間に及ぶテープの中で、そもそも自然界に存在する物質は、すべて有限である。一定の寿命があり、そして時間が経てば、劣化して行く、老化して行く、にもかかわらずお金だけは、なぜ無限なのか、不滅なのか、この問題を解き明かす事で、経済の様々な矛盾と言うものを考えて行こうと言う問題提起をされた訳であります。これから私達の社会は、多くの経済的な矛盾の中で苦しむ事になると思いますが、エンデさんは、丁度70年程前、オーストリアで行われた歴史的な実験と言うものに、大いに注目をされました


http://www.grsj.org/report/report/endenoyuigonsinario.htmlより


なぜお金だけは無限であり不滅なのか?
僕たちにとってあまりにも欲望が大切なため、欲望が充足して消滅することを恐れ、その充足を先延ばしにする。そうすれば欲望は永遠に僕たちの手もとに残りますにゃ。欲望よ永遠たれ、と望んで手もとに貨幣が残ったわけですにゃ。
飲みたいときに飲み、食いたいときに食っていれば、貨幣は単なる交換手段以上のものではにゃーだろうに。


で、貨幣が永遠の欲望の具現化したもの、つまりチンコマンコあるいは神様であることはまずいだろうというわけで、ゲゼルというヒトが「老化する貨幣」を考えたわけですにゃ。これにエンデは注目する。
これはリンク先でmojimojiも言及しているように、ケインズも注目していたようですけどにゃ。
ゲゼルの思想について、詳しくは


ま、欲望充足の先延ばしを否定してもせんのにゃーことだ。欲望充足の先延ばしによって富を増大させることを僕たちは選んでしまったし、おかげで衛生状態や栄養状態が改善してそうそうヒトも死ねなくなったのかもしれにゃー。
欲望の充足を先延ばしにすることがたたえられる限り、つまりニンゲンが勤勉で真面目で明日を考える限り、貨幣は神様のままだろ。
とはいえ
欲望の充足を先延ばしにして働いても働いても、手もとに何も残らにゃーヒトタチが増えてきたら、やっぱり何かが終わるんだろうけどにゃ。

*1:エンデの作品であれば個にゃん的にはジムボタンシリーズの方が好きだけど