なぜ臓器が足りないのか? そのとき何がおこるのか?


重い話題が続いて申し訳にゃーが、先日のエントリで予告したとおり、臓器移植について新聞記事になったのを機会に思うところを述べますにゃ。
http://www.asahi.com/national/update/0206/TKY200902050393.html*1によると、中国へ「臓器提供が極端に少ない日本から患者が渡り続けている構図だ」そうですにゃ。
なぜ、臓器が足りないのか?
臓器が足りないと何が起こるのか?

河野太郎のブログより

国籍法改正問題で、まともな対応をみせた衆議院議員 河野太郎のブログ*2から引用するにゃ。臓器移植法改正の動きがあるようにゃんね。
さすがにデータがしっかりしているよにゃー。


アメリカで人工心臓をつけて移植を待つ場合、平均的な待機日数は約50日。それに比べて日本では、平均的な待機日数が750日、最長では1500日だそうだ。


そしてアメリカでは平均50日待つと移植を受けることができるが日本では人工心臓で二年近くがんばっても移植を受けられるとは限らない。平均日数の最後は移植ではなく死であるかもしれない。


臓器移植法が制定された1997年から2009年1月19日までの日本での心臓移植の総数は合計して62件。全部で62件だ。


2007年一年間に日本国内で行われた心臓移植は10件。同じ年にアメリカでは2240件、フランスでは386件、イギリスでは135件の心臓移植が行われている。


アジアでも最新のデータを見ると韓国は2005年に26件、台湾は2003年に68件、香港2005年に8件、サウジアラビア同じく2005年に8件。
2003年末までに台湾で総計493件、韓国216件、タイで162件の心臓移植が行われている。
日本は2009年1月で62件!


http://www.taro.org/blog/index.php/archives/996


ごくごく単純に、日本では脳死者からの臓器移植に高いハードルがあるために、脳死者からの臓器移植が非常に困難な状態にありますにゃ。心臓移植は脳死者からするほかはにゃーわけで、臓器移植法制定以来12年間で62例というのが、日本における脳死者からの臓器移植のほとんどなのでしょうにゃー。


NPO法人 日本移植者協議会のHPもご参照くださいにゃ。日本における臓器移植は、圧倒的に腎臓や肝臓などの生体間移植(生きているヒトからの移植)なのですにゃ。

脳死者からの臓器移植の高いハードル

脳死をニンゲンの死であると認めることについて、反対意見があるのは存じておりますにゃ。脳死がニンゲンの死であると【感じられない】ということについては、例えば「生命学に何ができるか 森岡正博」などにも説得力のある具体例がありますにゃー。


日本人のフェティッシュな心性と脳死をニンゲンの死とすることとがそぐわないのだ、という文化論にも傾聴すべきところはあるでしょうにゃ。臓器移植はカニバリズム(人肉食い)であるという指摘もありますにゃ。あるいは医療不信というのもあるでしょうにゃ。
僕自身も、脳死者からの臓器移植は認めるべきではにゃーと思っていたのですにゃ。
「ニンゲン、諦めが肝腎だし、これは日本の文化にもあわにゃーだろ」と。
しかし、考えが変わりましたにゃ。

意味不明な日本の主張

河野太郎のブログには、こんな記述もありますにゃ。


この状況で、この5月からWHOの新しいガイドラインが採択されると、日本人は海外で移植を受けることができなくなる。


おいおい、こりゃたいへんだ! 日本人狙い撃ちだ! 人種差別だああああああ!
と騒ぐ前に、ちょっと冷静になる必要がありますにゃ。


実は、メリケンにおいても欧州においても、臓器は不足しているのですにゃ。
例えば、フランスでは生前に臓器移植に明確に反対の意思を示していにゃー限りは、臓器移植に賛成とみなされ、脳死になると臓器移植されてしまうことに法律上はなっていますにゃ*3


「国内で臓器を待っている患者がいるというのに、なぜ日本人に貴重な臓器をわたさなければならないのか? 日本には移植の技術がないわけでもないはずなのに。」
と問われて、脳死者からの臓器移植反対者はどう答えればよいのでしょうかにゃ?


脳死を死と認めるのは日本の文化にそぐわないから、それを認める文化の臓器を使うって? にゃんと身勝手な! それが日本の文化だというのなら、それに殉じるのがスジってものだにゃ。
臓器移植がカニバリズムだとしたら、わざわざ外国にでかけて人肉を漁っているのが今の日本人だということになっちまうよにゃー。
日本の医療は信じられにゃーから、外国で移植手術ってのも意味不明。


日本における脳死者からの臓器移植に反対する理路の多くは、現に世界で臓器が足りず、日本人が貴重な臓器を提供をせずに奪い取っているだけだという事実の前に説得力を失ってしまうのだにゃ。
現にデンマークでは脳死と臓器移植に関する法律が整備されていなかったために、デンマーク人患者は近隣のドイツやノルウェーにでかけて移植手術をうけるほかなく、そのことが近隣諸国から激しい非難をあびて1990年に「脳死を個体死である」と正面から認める法律を制定したとのことですにゃ。
採択予定のWHOのガイドラインは、たぶん日本を主なターゲットのひとつとしたものなのでしょうにゃ。それは当然のことですにゃ。


僕は中国の政治体制は好きになれにゃーし、権威主義的な政治体制をバックにして死刑を乱発する司法にも嫌悪感があるけれど、臓器移植を待つ日本の患者達は、実は中国の暴力的な司法に依存しなければならなかったのですにゃ。


日本のやっていることって何だ?
自分たちに都合のよいだけのきれい事を自己中に語り、自らの手は汚さず、他人の善意を食い物にし、あるいは死刑囚の臓器を独占する、ということなんでにゃーのか?

臓器売買ビジネスのお客

さらに、だ。
メリケンや欧州においては、基本的には臓器の売買は禁じられていますにゃ。臓器提供は善意でなされる(ということになっている)。ところが、アジアの多くの貧しい国においては、臓器売買ビジネスが成りたっているらしいのですにゃ。

非常に興味深いので、リンク先を読んでくださいにゃー。インドではすでに臓器売買ビジネスはビッグビジネスのようにゃんね。インドで多いという代理出産もこの流れなのでしょうにゃ。
確かにこういう事例を聴くと、「カニバリズム」といいたくなるよにゃ。


リンク先の粟屋剛氏には「人体部品ビジネス 臓器商品化時代の現実」という著書があり、それによると

  • 1)需要 国内外に臓器を必要とする多数の患者が放置されていること
  • 2)供給 ドナーとなる多数の生活困窮者が海外にいること
  • 3)医療技術 移植技術と移植ができる医療設備が整備されていること
  • 4)禁止立法 法律による臓器売買が禁止されているが、いまだにその規定による摘発もなく実効性はないこと
  • 5)社会的風土 臓器売買を容認する風土があること

以上が臓器売買発生の原因なのだそうですにゃ。
日本が臓器売買ビジネスのよいお客になっていることは間違いなさそうにゃんね。


だが、こんなのはまだまだマシなのですにゃ。
以下は本当に胸が悪くなる話なのでご注意。

禁ずればもぐる

南米の多くの国はカトリックで、中絶は禁止されていますにゃ。
で、実際に中絶を禁止するとどうなるかというと、金持ちは中絶を認めている国へいって安全な中絶を行い、貧乏人は闇業者あるいは自分で不衛生で危険な中絶を行うか、無理して産んで経済状況を悪化させることになりますにゃ。
中絶を禁ずるというカトリックの理屈はわかるけれど、その倫理の強制が現実にもたらしているのは、正直なもの・貧乏人を罰するだけなんだにゃ。金持ちはフリーパスだし、闇業者も大もうけ。苦しむのは貧しい♀とガキ。


セックスを禁じても無意味だし、セックスすれば妊娠もあるわけだにゃ。
禁じても仕方のにゃーことを強制的に禁じても、それがもたらすのはどうしようもにゃー不正義であり不公平にゃんね。


日本人が身勝手な理屈をこねくり回し、外国の脳死者の善意を食い物にしたおかげでWHOのガイドラインが新しく採択されそうにゃんが、これが成立してしかも日本の国内で臓器移植法が改正されずに脳死者からの臓器移植ハードルが高いままだったらどうなるか?
まず、間違いなく闇に潜るでしょうにゃ。


現在でも主に途上国において、毎年多くのこども(百万人におよぶという話すらある)が行方不明になっているけれど、その多くは人身売買されているということのようですにゃ。臓器摘出目的でこどもを売買するというビジネスは現実にあるようにゃんね。今でもたぶん、日本はこうした人身売買・臓器摘出殺人のいいお客であると考えられますにゃ。
そして
臓器移植法を改正せずにWHO新ガイドラインが採択されると、この胸がどす黒くなるような犯罪ビジネスが活性化すると思われますにゃー。


日本の文化がどうとか、医療不信がどうとか、そんなことが言っていられる状況ではにゃーと思う。脳死者からの臓器移植に反対する理路のひとつに、医者とか厚労省の権益だの利権だのという陰謀論をふりまわすのがあるけれど、彼らは実は臓器売買・人身売買・臓器摘出殺人の犯罪コネクションの権益を守っていることになるのだにゃ。
しかも、臓器移植ができるのは日本国内の金持ちだけ。それが、札びらきって途上国のガキを殺して臓器をぬいて生きようとすることになるだろうにゃ。


国内の全ての心臓移植は保険適用となり、心臓移植手術費は104万円、心臓採取術費49万円、脳死臓器提供管理料14万円。
海外では一億円近い費用がかかってきた。


臓器移植法を5月までに改正しなければ、立法の不作為となるだろう。
予算委員会で漢字の書き取りをやっている暇があるならば、臓器移植法の改正に着手すべきだ。


http://www.taro.org/blog/index.php/archives/996


以上
脳死者からの臓器移植のハードルをさげるように法改正すべきだと考えますにゃ。
法改正に賛同しますにゃ。

補足 トランスジェニック豚

臓器移植については、脳死者からの移植、生体間移植のほかにも、人工臓器や異種間移植という選択肢がありますにゃ。
ここでは異種間移植(ちがう種類の動物の臓器を移植)を取り上げますにゃ。

をご覧くださいにゃー。
すごく乱暴に要約すると、

例えば心臓を移植するにしてもニンゲンからだとどうしでも不足するから、動物の心臓を移植してしまえばよい。野生動物をこの目的で使うのは倫理的に問題があるから、家畜を使おう。豚なら大きさといいドナーとして最適。
このばあい、拒否反応がおこるだろうから、豚にニンゲンの遺伝子を組み込んで拒否反応が起こらないようにすればよい。原理的には可能だぜ。
しかし
作るのはニンゲンと豚のキメラだし、豚の病気がニンゲンにうつったらやばいし、慎重にやらないとね。


豚の血球数やその大きさもニンゲンに近く、ニンゲンと同じ雑食動物でもあり、血液生化学的にもドナーとして最適だとか。ニンゲンと豚って、いろいろと近しいところのある生き物みたいにゃんね。実際に、エイズスペイン風邪、クロイツフェルド・ヤコブス病なんかは豚の病気がおおもととされているんで、豚を使うのは最適だからこそ慎重にやらにゃーとまずいのでしょうにゃ。
また、このトランスジェニック豚というのはニンゲンと豚のキメラだというところもにゃんともいえにゃー感じ。それに、動物愛護団体が、異種間移植はニンゲンの横暴だと騒いでいるという話もあるようですにゃ。


ニンゲンがニンゲン中心主義で何がワリイと僕は思っているんで、ガキをさらって臓器を抜くような真似が避けられるのならば豚を自分の手で殺してもいいと思っているけどさ、キメラ技術、しかもニンゲンの遺伝子を組み込んだキメラ技術を簡単に認めるってのは、にゃんともかんとも・・・・
まあ、ビンボーなガキを殺して臓器を抜くくらいなら、ニンゲンが別の生き物になったっていいと僕は思うけどにゃ、最終的には。

補足2

このエントリを書くにあたって、この書籍をおおいに参考にいたしましたにゃー。


また、リンク切れ対策として、朝日新聞の記事をコピペしておきますにゃ


禁止後も中国渡航、臓器移植 NPO「17人を仲介」
2009年2月6日3時1分


 外国人への臓器移植が07年7月に原則禁止となった中国で、日本人への移植が続いていることが患者や仲介者らの証言で分かった。仲介組織の幹部は「禁止後に17人を仲介して移植を受けさせた」と認めた。患者から受け取った費用の中から現地の医師に治療費以外に謝礼を渡し、受け入れてもらったという。


 中国は国内患者の保護のために禁止したが、臓器提供が極端に少ない日本から患者が渡り続けている構図だ。


 中国政府は07年5月、臓器売買を禁じる臓器移植法を施行し、7月には、衛生省が全医療機関と従事者に対し、外国人への臓器移植を原則として禁じる通知を出した。外国人でも、中国に住む人は移植が受けられるが、移植のために訪れる人は認められない。


 関東に住む40歳代の男性は取材に対し、「07年8月に広州の軍関係の病院で腎臓移植を受けた」と証言した。20年近く慢性腎炎を患い、日本では移植が受けられそうにないため、中国行きを決意。大阪府内のNPOに経費として約1千万円を払い、仲介を受けた。男性は、この病院に実在する医師の名を担当医として挙げたが、医師は「具体的な状況は覚えていないが、通知後は原則として外国人に移植はしていない」と否定した。


 NPOの副代表は「禁止後、腎移植と肝移植で男性を含む17人の日本人を仲介した」と話した。


 副代表によると、移植を希望する患者から預かった経費の中から、治療費や交通費など以外に中国の医師に1件あたり約200万円の謝礼を払う。中国政府は国内の臓器提供者の9割超が死刑囚だとしているが、副代表は「提供者は分からない」としている。


 NPOは05年に設立。副代表によると、中国での腎臓、肝臓の移植について患者を病院に仲介しているが、あっせん料などは受け取らず、「仲介は非営利」としている。


一方、男性が帰国後に治療を受けている東京都内の病院幹部は「中国で移植を受けた日本人患者2人を禁止後に新たに受け入れた」と証言した。都内の別の大学病院の医師も昨年、中国で腎臓移植を受けた患者が来院したと話す。


 厚生労働省によると、日本の臓器移植法は国内か国外かを問わず臓器売買を禁じており、売買された臓器の移植を受けた患者は罪に問われるおそれがある。営利目的の仲介は臓器売買の一種とみなされる可能性がある。(長野剛、広州=小林哲)

*1:リンク切れ対策として、後ろに全文コピペをおいておく

*2:しかしね、この僕が自民党の議員を肯定的に扱うことになるとはにゃ、とほー

*3:実際の運用においては、遺族の了解をとっているとのこと。そうでなければ医療不信につながるからだそうですにゃ