第三次試案へのパブコメのお願い

一昨日の続きを書かなければならにゃーのだが、先に触れておくべきネタができてしまいましたにゃ。
2008-05-05からリンクされている先をいろいろと見て、これはまずいと思いましたにゃ。
ここで問題となっている状況は、

  • 医療死亡事故について分析・評価を専門的に行う機関を厚労省が法制化しようとして試案(第三次試案)を作成した
  • 現場の医師は、ほぼ一様に「第三次試案」に反対している
  • 第三次試案に関するパブリックコメントが募集されているが、締め切りが5月7日のようである
  • 数百通のパブリックコメントで、第三次試案を一時的にでもひっこめさせうる可能性がある

というわけで、こんなマイナーブログの蟷螂の斧が有意味になりえる可能性があるので、みにゃさまにお願いもかねてこの話題に触れてみますにゃ。


まず、大きな文脈はいわゆる医療崩壊にゃんね。
日本の医療についての国際的な評価は極めて高いにゃ。例えば日本の医療費について 概略に資料があるけれど


わが国の医療費は国際的に見ると大変に少ない。
医療費の対GDP比は僅かに7.9%、世界先進国中で最も低い値です。


わが国の医療の評価は世界一高いのです。
健康寿命は世界一、健康達成度の総合評価も世界一(OECDデータ,2005)
平均寿命 男78.4歳 女85.3歳で世界一長寿(WHOデータ,2002)

つまり、国際的に見て「世界先進国中で最も低い」医療費で、「健康寿命は世界一、健康達成度の総合評価も世界一」という、まさに奇跡のようなことをしてきたわけですにゃ。
この最大の原因は、国民皆保険というすぐれた制度に帰せられると思うけれど、他にもいろいろと考えられることはありますよにゃ。食品や水道水などの衛生水準が高いこと、栄養状態がよいこと、それらを支える教育水準が高いこと、などなど。また、個にゃん的には、パターナリズムが上手く機能していたのも効率の上で結構大きいような気がしていますにゃ*1
もちろん、医療現場の努力も挙げられなければならにゃーことですにゃ。


医療が安上がりかつ高品質であることは、皆にとって万万歳かというと、実はそうでもにゃー。公的保険制度と医療がダメになったほうがもうかる職業があるよにゃ。
保険屋だよ。
実際、メリケンでは日本よりはるかに医療費をつぎ込んでおきながら、その効率はヒデエもんだし、貧乏人は医者にかかれにゃー。医師もそこそこカネをとっているようだけど、なんといっても儲かって儲かってしかたにゃーのは保険屋ですにゃ。
奇跡的にうまくいっているはずの日本の医療制度を改革するとかいって、作った規制改革会議の議長は保険屋のオリックス宮内。医療現場を代表する者は規制改革会議にはいなかったのだにゃ*2。こういうのを基地外沙汰っていうんだよね。

市場化して医療はグタグタになってしまったという教訓があるのにもかかわらず、市場化すれば医療はよくなるとかいう白痴的虚言がマスコミによって広げられていったわけですにゃ。医療制度に対する根拠のにゃー不信が煽り立てられていったわけですにゃ。
と、これが一番大きな文脈ではにゃーかと僕は考えますにゃ。


で、「医療崩壊」さまざまな要因についてはwikipedia:医療崩壊をご覧くださいにゃ。
これらの要因のなかでも、もっともインパクトがあったのがwikipedia:福島県立大野病院産科医逮捕事件にゃんね。


この事例は前置胎盤と癒着胎盤が合併したもので、産婦人科医が一生に一度遭遇するかしないかと言われるほどの、非常に稀な症例であった。癒着胎盤は術前の予測が不可能な合併症であり、一人産科医師という困難な状況下で1年以上前に発生した、また医学的に検討して医療過誤と断定することが難しい医療事故に対して逮捕が行われたことは、多くの産科医を始めとする臨床医に大きな衝撃を与えた。

日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会から「座視することができない」旨のコメントが表明され、各地の地方支部からも医師逮捕に対する抗議が表明された。日本母性保護産婦人科医会は声明を発し「この様に稀で救命する可能性の低い事例で医師を逮捕するのは産科医療・殊に地域に於ける産科医療を崩壊させかねない」と批判した。事実、この一件が契機となって特に昼夜を問わず地域医療に貢献していた医師の意欲は著しく低下し、負担の大きい(特に地域の)医療現場から医師が去るきっかけを作った。

医療現場から医師が去ると、遺された医療現場はますます過酷になり、医療崩壊のスパイラルに突入してしまう。そんな事情で、警察・司法と医療の関係を見直す必要性がでてきたわけですにゃ。
そこで、当然に考えられるのが、医療事故の際に、中立かつ専門的判断ができる第三者機関の設置にゃんね。これを厚労省が作ろうと試案を発表しているわけですにゃ。


ところがこの試案が問題オオアリで、現場の医師は「この試案通りの医療事故調査委員会ができたら、医療崩壊は確定だわ」という反応なのですにゃ。詳しくは最初にリンクした「新小児科医のつぶやき」にリンクされている資料に目を通していただきたく思いますにゃー。
どうも厚労省が「焼け太り」をねらっているという指摘はリンク先でもされていますにゃ。医療に関する規制改革会議の言い分っていうのは金融資本の代理でもあると同時に財務省の代理ともいえるわけで、厚労省のなわばりを財務省があらしているという見方もできるのではにゃーだろうか。社会保険庁も解体が決まり厚労省の省益が削られているおり、ここで省益確保に動いているというのも実にありえるお話にゃんな。
おきざりにされてあおりをくうのは医療の現場、もっといえば医療を受ける僕たちひとりひとりですにゃ。僕はガキに申し訳なくてしかたがにゃーです。


ちゅうわけで、僕も先ほどパブコメをいれてみたにゃ。
テンプレはリンク先にもあるし、それを参考にしてパブコメを入れてくださることをお願いいたしますにゃ>みにゃさま
リンク先資料を眺めて急ごしらえで作った恥ずかしいものにゃんが、僕のパブコメを晒しておきますにゃ。


「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案−第三次試案−」(以下、「第三次試案)に以下の理由で反対する。



第三次試案は、WHOの医療安全に関する設計図、WHO DRAFT GUIDELINE FOR ADVERSE EVENTREPORTING AND LEARNING SYSTEMで提言されている「調査委員会構成のあるべき原則」に則ったものではない。これは、第三次試案の別紙3,「捜査機関との関係について」によく表れている。
その原則とは

(1)Confidential ; The identities of the patient, reporter, and institution are never revealed.

 秘匿ー診療関連死の患者名、報告者(医療従事者)、医療機関は決して第三者に明かされてはならない。


(2)Independent ; The reporting systems independent of any authority with power to punish the reporter or the organization.

 独立性ー医療安全委員会は、報告者や医療機関を罰する権限を持つ当局者から独立していなければならない。


(3) Expert analysis are evaluated by experts who understand the clinical circumstances and are trained to recognize underlying systems causes.

 専門家の分析ー診療関連死の報告は、診療関連死が起きた状況を理解でき、かつ問題となっているシステムを把握できるようにきちんと訓練を受けた専門家によって評価されなければならない。

上の原則に則って設計された調査委員会によって、患者側の知る権利が保障され得ると考えられる。第三次試案による制度設計では患者側にも医師・病院側にも益するところがない。



また、

  • 日本消化器外科学会 「第三次試案」に関する見解
  • 「第三次試案」に対する日本麻酔科学会の意見
  • 日本産科婦人科学会 「第三次試案」に関する見解
  • 「第三次試案」に対する、全国医学部長病院長会議―大学病院の医療事故対策に関する委員会の見解


などの医療現場の責任ある見解が、一様に第三次試案に反対もしくは疑義を呈するものであることの意味は大きい。第三次試案12頁、4-51にあるとおり、「本制度の確実かつ円滑な実施には、医療関係者の主体的かつ積極的な関与が不可欠」だからである。


ここで各医学界の見解を詳細に検討する余裕はないが、これら医学会の見解は第三次試案よりもWHOの医療安全に関する設計図に沿ったものであることは明白である。また、各医学界は第二次試案に対しても、WHO基準に近い立場から批判をしていたはずである。
国連機関の示した世界基準と医療現場の責任ある見解がかなりの程度一致をみているにもかかわらず、第三次試案がそれらを反映していないのは理解に苦しむ。

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